第7章 予備校を賢く活用するには?

第七章 予備校の賢い活用の仕方

 

  「予備校」はもともと、「浪人生」の通う場所でした。「浪人生」が主役の場所です。その場所に、放課後であるとか、夏期講習であるとか「現役生コース」が、ちょこっと存在していたにすぎませんでした。

 そのため、昔、人気のあった予備校講師は、浪人生が勇気づけられる言葉を発してくれたり、パフォーマンスにより楽しい気持ちにさせてくれたりする先生でした。かなり個性的な先生ばかりです。

私が受験生のときある予備校で受けた英文法の授業。「えー皆様、えー皆様」と、電車の駅員さんのような口調でガラガラ声で登場し、まずは自分の自慢話(なぜか食事に限定)からはじまり、「昨日は神戸校にいたのですが、たんまり神戸牛を食べてきました」と言ったと思ったら、いきなり英文の解説を始め、受験レベルの英単語が出るたびに、全員に対し辞書を引くことを要求し、その単語の前後の単語にもに蛍光ペンで線を引かせ、その度に「辞書を食べちゃいなさい!辞書を食べちゃいなさい!」と叫ぶ。教室中毎回爆笑。先生はずっと真顔です。辞書を持ってこなかった受講生には怒り出し、辞書を引かない人や蛍光ペンで線を引かない人には厳しく指摘するのです。しかも、英語の発音はむちゃくちゃ。ちなみにその予備校の本部校の東大コースの中でもトップのクラスの授業です。

今考えても、その英語の授業は全く何の役にも立ちませんでしたが、ずいぶんと時を経過した今でも、強烈に記憶に残っています。そういう意味では、私も何らかの影響を受けているのかもしれません。実際、この本に書いているわけで。

授業内容で何かを学ぼうというよりも、色々な場所から受験生が集まって、面白い授業を受けて・・・。それで、受験生同士で情報交換して、自習室で実力をつけていく。そんな感じでした。予備校講師には、パフォーマンス、芸人的要素が求められていたのです。

しかし、少子化に伴い、浪人生は減り、しかも浪人生は難関大学を目指す人が中心となり、むしろ学力の高い人がものすごく多い。たとえば、東大や国公立大学医学部を受験し、失敗し、浪人する人の中には、センター試験で9割以上既にとっていて、大学不合格になっている人も少なくないのです。「東大の文Ⅲなら合格する点を取れたが、どうしても東大の文Ⅰに入りたいので・・・」という人も浪人してくるのです。首都圏の有名中高一貫校出身の生徒も多くいます。

そういう状況になってくると、予備校講師に求められるのは、よりレベルの高い、一歩踏み込んだより高度な内容の授業だったりします。パフォーマンスを伴っているかどうかは、授業を受けるかどうかの判断基準ではありません。

 

現在、予備校の授業を受ける人は、多くが現役高校生です。

現役高校生は、毎日、学校で授業を受けていてその中には面白い先生もいるだろうし、様々な行事も学校であって、部活動に励んでいる人もいます。毎日、学校でさまざまな刺激を受けているのです。

そんな中、放課後や学校が休みの日に、予備校でパフォーマンス中心の授業を受けたいなんて思いません。しかも、現在は、首都圏も含め多くの予備校で授業は「映像授業中心」です。映像授業を見て、大声でゲラゲラ笑っていると周囲からひんしゅくを買ってしまう。

 

現役高校生は何を目的に予備校に通って来るのでしょうか?

「学校の授業が理解できない」、「大学入試の過去に出題された問題を解こうと思ったが全く解けない」という、具体的な受験勉強に対する悩みを解決したいと考えて通って来るのです。

多くの受験生は、高二の秋や、高三になってからあわてて予備校に通いだします。

このノリも実は、中学生のときの経験に沿っています。

中学生の時は、中三になってから多くの人が学習塾に通いだし、部活動も終わった夏休み以降に集中して受験勉強を始め、それでも十分に間に合ったという経験からです。

しかし、大学受験は、高校受験とは全く違うのです。

大学受験を一般入試で受ける人の方が実は少数派。しかも、大学受験を一般入試で受けようとしている人の多くは比較的学力が高い人ばかり。そのような受験生の中での競争なのです。競争が激しいのは当然です。

また、高校受験の時は、どんなに難関といわれる高校を受けようとも、基本的には学校の教科書がベースになって、その延長上に高校入試問題がありました。しかし、大学受験の場合、教科書の延長上に大学入試があると考えて勉強を進めようとするとうまく進められないのです。

中学の時はどんなに成績がいい人であっても、学校の教科書が基礎になり、塾では学校のフォローや発展的な問題を行っていました。しかし、高校では、学校の教科書自体が、よく理解できなかったりするのです。そのくせに、「教科書を深く理解」していなければ、大学入試で合格点は取れない。それなのに「教科書を深く理解」することは、学校の授業では難しくて、よくわからなくても表面的なことを丸暗記して定期テストは乗り切っている。

受験が近くなり、学校のプリントでわからないところを塾で聞こうと思っても、それにサクサク答えてくれるような先生は、地域のどの塾にも存在しないことに気づく。「あれれ・・・」と思っているうちに、高3の夏休みが終わり、大学受験の一般入試で合格することが難しいことを悟り、あまり行きたいと思っていなかった大学の推薦で受け、その大学に進学することになる・・・。

そんな高校生が少なくありません。

幸か不幸か、「人気のある大学の指定校推薦」でなければ、現在は、少子化のため定員に満たない私立大学がたくさんあります。そうした大学へは、「さまざまな形の推薦入学制度」があり、期日までに願書と推薦状を提出し、面接を受け、合格通知を受け取り、期日までに手続きをすることを行えば、進学することができます。受験勉強は言うまでもなく、高校の勉強すら少なくても家では全くしなくても、大学を問わなければ、大学生になる道はあるのです。

 

では、このような状況を避けるためにどうすればいいのでしょうか。

まずは、自分の現況をしっかりと自分自身で考えることなのです。

そのことをこの本で述べてきました。

そして、予備校(映像授業)の上手な活用です。

もともと、予備校は「受験に失敗したら行くところ」でした。ですから、予備校の授業は、「高校などで一通り基礎を勉強していることが前提」の授業だったのです。

しかし、現在も予備校講師として指導の現場にいて感じることは、そうではなく、「最も効率的・効果的な勉強法」について常に研究している予備校講師の授業を、高校の授業が行われる前に、予習として受けてしまった方が効果的・効率的だということです。

実際、高校の授業で扱う前に、つまり、教科書を全く読んでもいない状態で、予備校の基礎の授業を体系的に学んだ高校生は、劇的に成績が上がるという事実を知ってもらいたいのです。

しかも、そうすることで予備校の授業が学校の授業の予習となるため、どんな先生(解説をほとんどしてくれない先生、プリントばかり配る先生、宿題ばかり出す先生)が授業を担当しても、すでに「最も効率的・効果的な勉強法」で理解していれば、学校の授業を問題演習の場として活用できます。学校の授業が受験対策に役立つ授業に変貌してしまうのです。

 

「学校でわからない箇所があったところを塾や予備校で解決する」

こういった勉強法は間違いではありません。ただ、大学入試問題で問われる内容は高度なため、「学校でわからなかった箇所を的確な内容でスラスラ答えてくれる先生」を塾や家庭教師などで探すことは困難です。そのため、こういった勉強法を実行できるのは高校受験までです。

学習塾にしても、中学の時はどんなにトップレベルの生徒に対しても、学習塾の先生(大学生のアルバイト講師も含む)が、塾教材の指導マニュアルを参照しながら教えることは難しいことではありません。個別指導塾にしろ、家庭教師にしろ、地域大手塾にしろ、数ある中から、生徒が選ぶことができました。しかし、大学受験の場合、学習塾でも大学入試レベルの内容を個別指導も含め、指導可能な先生はかなり限られてしまいます。

というのも、たとえばあなたが東北大学を第一志望としているとします。大学入試センター試験では、85%くらいの得点は必要になってきます。あなたは、F県に住んでいて、F県の個別指導塾に行こうと思っても、その地域の塾の講師は、ほとんどが国立F大学の大学生。F大学の場合、センター試験60%の得点でも合格している人もいます。あなたは、85%の得点を目指して受験勉強しなければならないのに、60%の得点だった「先生」から教えてもらうことになります。もちろん、現実的に考えて成立しません。

そんなわけで、中学の時は、どこの塾に行くかを「選択できた」のに、高校に入ってある程度のレベルの大学を一般入試で受けようとすると、塾が限定されてしまったり、塾が存在しなかったりするのです。「学校の授業が理解できなくなってきたら塾に行けばいいや」と思っていたら、対応してくれる塾が存在しないことに気づくのです。

そういったことも考えると、大学受験を一般入試で受けようと考えている場合、「学校でわからない箇所があったところを塾や予備校で解決する」という選択肢は存在しないと考え、「最も効率的・効果的な勉強法を常に研究している予備校講師の映像授業を、高校の授業を受ける前に受講してマスターしてしまう」ことが最善ということが分かると思います。